膵臓がんが胃カメラで超早期発⾒できます!
はじめに
近年、医療技術の⾶躍的な進歩により、これまで発⾒が難しかった多くの疾患を早期に捉えることが可能になってきました。
中でも、症状が現れにくく、⾒つかったときには進⾏していることが多かった膵臓がんに関しても、最新の診断技術の導⼊により、早期発⾒への道が⼤きく開かれつつあります。
膵臓がんは「沈黙の臓器」とも呼ばれる膵臓に発⽣するため、⾃覚症状がほとんどなく、残念ながら発⾒された時点で、すでに進⾏した状態であることが多い病気です。しかし近年、ある⽅法でこれまで不可能とされてきた早期の段階での発⾒が少しずつ現実のものとなっています。
この記事では、膵臓がんの特徴や従来の課題に触れつつ、最新の医療技術がどのように膵臓がんの早期発⾒に貢献しているのかについて詳しくご紹介させていただきます。
1 膵臓がんはなぜ恐ろしいか
膵臓がんは、「サイレントキラー(沈黙の殺し屋)」とも呼ばれ、初期段階では⾃覚症状がほとんど現れません。膵臓はお腹の奥深くに位置しているため、腫瘍が発⽣しても痛みや違和感を感じにくく、症状が出たときにはすでに進⾏しているケースが多いのです。
さらに、膵臓がんは周囲の⾎管や臓器に浸潤しやすく、転移のリスクも⾮常に⾼いため、⼿術可能な段階で⾒つかるケースはわずか20%程度にとどまります。
加えて、膵臓がんは抗がん剤や放射線治療に対する反応も限定的であり、また進⾏が早いため、診断された時点で⽣存率が著しく低いことが現状です。5 年⽣存率は全体でわずか10%程度とされ、他のがんに⽐べて依然として厳しい状況が続いています。
しかし、膵臓がんを初期の段階で発⾒することができれば、5 年⽣存率は80%まで上がると⾔われているため、膵臓がんにおいては「いかに早期に発⾒するか」が鍵を握っています。
2 膵臓がんの症状
膵臓がんは初期段階ではほとんど⾃覚症状がないことが特徴ですが、病状が進⾏するにつれてさまざまな症状が現れてきます。膵臓がんの症状は、腫瘍の発⽣部位(膵頭部、膵体部、膵尾部)や進⾏度によっても異なります。
最もよく⾒られる症状の⼀つが⻩疸です。膵頭部に癌ができると、胆管を圧迫して胆汁の流れが妨げられ、⽪膚や⽩⽬が⻩⾊くなる⻩疸が⽣じます。また、⻩疸に伴って、尿が濃い⾊になる、便の⾊が⽩っぽくなる、⽪膚のかゆみなどの症状も現れることがあります。
さらに、腹痛や背中の痛みも膵臓がんの代表的な症状です。特に癌が膵体部や膵尾部に発⽣した場合は、腹部の奥の鈍い痛みや、背中に放散する痛みを訴えることが多くなります。⾷欲不振や体重減少も進⾏がんに特徴的な症状で、これは消化酵素の分泌が妨げられることで消化不良が起こり、栄養が⼗分に吸収されなくなるためです。
膵臓がんがさらに進⾏すると、糖尿病の悪化や新たな発症が⾒られることがあります。膵臓はインスリンを分泌する臓器でもあるため、癌によって膵機能が低下すると⾎糖値のコントロールが困難になるため糖尿病を発症したり、糖尿病が悪化したりします。
3 膵臓がんの発⾒に必要な検査
CT室
膵臓がんは、通常の健康診断や法定健診では発⾒が難しい病気です。法定健診では、主に⾎液検査、尿検査、胸部X線、⼼電図などが⾏われますが、これらの検査では通常、膵臓の異常を⾒つけることはできません。⾎液検査で⾏われる腫瘍マーカー(CA19-9)も、膵臓がんの早期段階では数値に変化が現れにくいため、異常なしと判定されても安⼼はできません。
そのため、膵臓がんの早期発⾒には、より精密な検査が重要です。特に、腹部超⾳波検査(エコー)やCT 検査は、膵臓の異常をより詳しく観察できるため、膵臓がんの早期発⾒に⼤変有効です。超⾳波検査(エコー)は⽐較的簡便で⾝体への負担も少なく、膵臓の構造や腫瘍の有無を確認する初期検査として⼤変役⽴ちます。⼀⽅、CT 検査は膵臓の⾎流や微細な病変をより詳細に把握できるため、超⾳波検査で異常が⾒つかった場合には、CT による精密検査が推奨されます。
新橋消化器内科・泌尿器科クリニックでは、腹部超⾳波とCTの両⽅の機器を備えており、膵臓がんのリスクが疑われる⽅に対して、より精密な検査を⾏うことが可能です。法定健診だけでは膵臓がんのリスクを⾒逃してしまうこともあるため、少しでも不安のある⽅は、定期的に超⾳波(エコー)やCTによる検査を受けることが⼤切です。
4 画期的な膵臓がんの検査の登場
膵臓がんの早期発⾒にはさまざまな検査法が研究されていますが、最近、胃カメラ(胃内視鏡検査)の検査に合わせて膵液を採取し、KRAS(ケーラス)遺伝⼦変異を解析する⽅法が注⽬されています。KRAS 遺伝⼦は、膵臓がんの94%で変異が⾒られる遺伝⼦であり、この変異を検出することで、癌のリスクを早期に把握できるという画期的な⽅法です。
この⽅法では、胃カメラで⼗⼆指腸まで挿⼊し、膵液を採取して遺伝⼦変異を解析します。膵液には膵臓から分泌される酵素や細胞が含まれており、そこから得られる遺伝⼦情報を分析することで、膵臓の異常をより正確に捉えることが期待されています。特に、KRAS遺伝⼦変異は膵臓がんのごく初期段階でも検出されることがあるため、従来の画像診断だけでは⾒つけられなかった癌リスクを早い段階で捉えることが可能となるのです。
この検査は将来的には膵臓がんの早期発⾒の⼤きな突破⼝になると期待されています。
膵液を⼗分に採取するためには、検査の前に膵液の分泌を促す注射を⾏う必要があります。この注射には、セクレチンというホルモンを使⽤することが⼀般的です。セクレチンは膵臓を刺激して膵液の分泌を促す作⽤があり、この膵液に混⼊しているKRAS遺伝⼦変異を解析することで、膵臓がんのリスクを⾼い精度で評価することができます。
ただし、この検査⽅法はまだ研究段階であり、当院を含む⼀般の医療機関で広く導⼊されているわけではありません。今後さらに研究が進めば、膵臓がんの早期診断を⾶躍的に向上させる画期的な⼿法となることが期待されています。
5 KRAS遺伝⼦変異の信頼性
この検査法の⼤きなメリットは、膵臓がんがない健康な⽅にはKRAS 遺伝⼦変異は基本的に存在しないことです。そのため、誤って陽性と判定されるケース(偽陽性)は極めて少なく、⾮常に⾼い精度で膵臓がんのリスクを評価できるとされています。さらに、ある研究では、膵臓がんの発⾒率は81%という⾼い精度が⽰されており、膵臓がんの診断精度向上に⼤きく貢献する可能性があります。
6 KRAS遺伝⼦変異検査のさらなる可能性
膵臓がんの家族歴のある⽅、遺伝的リスクが⾼い⽅、慢性膵炎既往歴のある方など、膵臓がんの発症リスクが⾼い⽅は、定期的なモニタリングが推奨されています。
KRAS遺伝⼦変異検査を定期的に⾏うことで、膵臓がんの発症リスクの変化を早期に把握でき、必要に応じて精密検査や治療に移⾏できます。
また、KRAS遺伝⼦変異は、膵臓がんの前がん病変であるIPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍)でも検出されることがあります。前がん病変の段階で異常を発⾒できれば、早期治療によって膵臓がんへの進⾏を防ぐことが期待できます。
特に⾼リスク群の⽅にとっては、がんの発症を未然に防ぐ予防的アプローチとして⼤きな意義があります。
7 まとめ
膵臓がんは、⾃覚症状が乏しく発⾒が難しい病気であり、法定健診や⼀般的な健康診断では⾒つけることが困難であることが現状です。
KRAS遺伝⼦検査の登場は、膵臓がんの早期発⾒に繋がる画期的な⽅法です。特に、偽陽性のリスクが低く、⾼精度で癌のリスクを把握できるという点で⼤きな期待が寄せられています。
ただし、この検査はまだ研究段階であり、広く普及しているわけではありません。今後の研究成果により、膵臓がんの早期診断がさらに向上することが期待されています。
その⽇が来るまで我々は定期的な健康診断を受けることはもちろん、胃カメラや腹部超⾳波検査、CT検査を積極的に受けることが何より⼤切です。
新橋消化器内科・泌尿器科クリニックでは胃/大腸内視鏡や超⾳波、CT機器を備えており、消化器系疾患の早期発⾒のための消化器ドックもおこなっております。
⼟曜⽇・⽇曜⽇の検査も可能ですので、ご⾃⾝の健康のため、大切なご家族のために検査を受けてみてはいかがでしょうか。

日本泌尿器科学会認定・泌尿器科専門医
名古屋大学出身
年間30000人以上の泌尿器科と消化器科の外来診察を行う
YouTubeでわかりやすい病気の解説も行なっている。