肝機能障害の原因・症状・検査・治療
肝機能障害を健診や人間ドックで指摘される方は非常に多いです。
肝機能障害とは、様々な原因により肝臓に炎症が起こり、肝機能の数値が上がってしまう状態です。
肝機能障害は数日から数週間という短期的に起こる急性のものと、6か月以上持続する慢性のものがあります。
急性のものでは重症化(劇症化)、慢性のものでは肝硬変になる可能性があり、注意が必要な疾患です。
この記事では肝臓の働きや肝機能障害の病態、検査、治療法について解説しますので参考にしていただければ幸いです。
1 そもそも肝臓とは何をするところか
肝臓はお腹の右上で肋骨に守られるような場所に位置しています。
大きさは1.0~1.5kgもあり、人間の体内では最大の臓器です。
肝臓は「消化した栄養素の代謝」「解毒」「エネルギー源の貯蔵」「タンパク質合成」「消化を助ける胆汁の生成」など、生命の維持に大切な役割を担っています。
肝臓は一部が損傷を受けても長い間その機能を保つことができるため、初期段階では自覚症状がない場合があります。
そのため、沈黙の臓器と呼ばれ、異常に気づいた時には病気がかなり進行していることがあります。
2 肝機能障害とは
肝機能障害とは、様々な原因により肝臓に炎症が起こり、肝機能(AST、ALT、γ-GTP)の数値が上がる状態です。
肝機能障害は数日から数週間という短期間で起こる急性のものと、6か月以上持続する慢性のものがあります。
急性と慢性ではその症状や経過が異なります。
急性のものは基本的には自然に回復し、良好な経過が得られるものが多いですが、まれに重症化すると劇症肝炎や急性肝不全になり、命に関わる危険性もあります。
一方で、慢性のものは原因の治療が必要なものが多く、炎症が長期に渡ると、肝硬変になる危険性があります。
3 肝機能障害の現状
肝機能障害の患者数は、正確な数値は不明ですが、近年では食生活や運動といった生活習慣の乱れや内臓肥満による脂肪肝が増加していると言われており、全体としても増加している可能性が考えられます。健診や人間ドックで肝機能障害を指摘される方は年々増加しているといわれております。
4 肝機能障害の原因・リスク
急性の肝機能障害の原因は、肝炎ウイルス(A型、B型、C型、D型、E型肝炎ウイルス)やEBウイルス、サイトメガロウイルスなどの感染によるもの、薬剤によるもの、またはまれですが体が自分の肝臓の細胞を攻撃することによって起こる自己免疫反応によるものがあります。
慢性の肝機能障害の原因は、B型またはC型肝炎ウイルスの持続感染によるものの他、近年はアルコールの多飲によるものや、飲酒の習慣がなくてもメタボリック症候群により脂肪肝から肝硬変に至るもの(NAFLD/NASH)が増加傾向です。
その他には自己免疫反応によるものなどがあります。
5 肝機能障害の症状について
5.1 急性肝障害・肝炎
急性肝障害・肝炎の症状は、食欲不振や倦怠感、黄疸(白目が黄色くなる)、尿の黄染(尿の色が濃くなる)、吐き気、嘔吐、腹痛などが現れます。
ウイルス感染の場合にはこれらの症状の前にしばしば発熱や咽頭痛、頭痛などかぜのような症状が出ることがあります。
5.2 慢性肝障害・肝炎
慢性肝障害・肝炎の症状は、大半が無症状で経過しますが、時に食欲不振や倦怠感などの症状が現れる場合があります。
6 肝機能障害の検査について
6.1 血液検査
血液検査では肝細胞の炎症を反映する肝酵素(AST、ALT)や、胆道系酵素(ALP、LAP、γ-GTP)、黄疸の数値(ビリルビン)を測定します。
その他肝臓の線維化や合成能を調べるために、血小板数やプロトロンビン時間を測定する場合があります。
また肝機能障害の原因となりうる、肝炎ウイルスやEBウイルス、サイトメガロウイルスなどの抗原・抗体検査や、自己免疫反応の抗体などを調べることもあります。
6.2 腹部超音波検査・腹部CT検査・腹部MRI検査
肝臓の形や脂肪肝の有無、肝臓の中に腫瘍ができていないか、脾臓が腫れていないか、腹水が溜まっていないかなどを調べます。
また肝機能障害になりうる別の原因(閉塞性黄疸;胆石や腫瘍などにより胆汁の流れが悪くなり、黄疸や肝機能障害が出現する疾患)を除外します。
6.3肝生検
原因が分からず、肝機能障害が改善しない場合に行うことがあります。
超音波検査で肝臓を確認した上で、腹部に生検針を刺し、組織の一部を採取し、炎症や線維化の程度を評価できる検査です。
7 肝機能障害の治療について
7.1 急性肝障害・肝炎
基本的には安静、経過観察で自然に回復することが多いと言われています。
改善に乏しく重症化の恐れがある場合には、ステロイド投与を行います。
また、原因が肝炎ウイルスの場合には抗ウイルス療法を行います。
7.2 慢性肝障害・肝炎
原因に応じた治療を行います。B型肝炎では肝臓の炎症が強い場合に、C型肝炎であれば大半のものは経口での抗ウイルス療法が行われます。
また、アルコール性であれば禁酒、NAFLD/NASHであれば減量や健康的な食事を摂る、糖尿病や脂質異常症がある場合にはそれぞれの治療薬が用いられます。
自己免疫性であればステロイドや免疫抑制薬が用いられます。
8 肝機能障害の予防について
8.1 B型肝炎ウイルス
B型肝炎は血液や性行為によって感染します。
歯ブラシや剃刀の共用を避け、性行為の際は防御予防手段(コンドーム)を使用するなどの対策が大切です。
またワクチン接種は有効な予防法とされており、感染するリスクの高い方や、B型肝炎と診断された母親は、生まれてくる子どもに感染させないため、ワクチンの投与が必要と考えられています。
8.2 C型肝炎ウイルス
C型肝炎は主に血液によって感染します。
歯ブラシや剃刀の共用を避けることが大切です。
8.3 アルコール
アルコール性肝炎の場合は、なによりもアルコール摂取を控えることが大切です。
初期の段階であれば、節酒によって肝臓は元の状態に改善します。
アルコール性肝炎と診断されたにも関わらず節酒や禁酒ができない場合は、アルコール依存症の可能性があり、一度精神科などで専門的な診断、治療を受けることをお勧めします。
8.4 NAFLD/NASH
BMIが25以上になっていないか、腹囲が増えていないか注意が必要で、該当する場合には減量が必要です。
また食べ過ぎや油ものの摂り過ぎを控えるなど食生活の改善が大切です。
その他体内の脂肪を燃焼させるため、ウォーキングやジョギング、水泳などの有酸素運動を定期的に行うことが大切です。
8.5 その他
A型・E型肝炎ウイルスは汚染された水や食べ物を摂取することで感染するため、特に衛生状況が悪い地域に行く際には、調理や食事の前、トイレの後に十分な手洗いを行い、十分に加熱したものを摂取することが大切です。
またA型肝炎ウイルスはワクチンで予防ができるため、衛生状況が悪い地域に行く際は有効な予防法と考えられます。
9 肝機能障害を放置すると
急性肝障害・肝炎は自然に治癒することが大半です。
一方で、肝機能障害を長引かせると慢性肝障害・肝炎は放置により、肝硬変や肝臓がんに発展する可能性があり、肝硬変になる前に早期の治療介入が必要と考えられます。
10 肝機能障害の患者様の経過の例
10.1 60歳男性
健康診断で行われた血液検査で肝機能障害を指摘され、当院を受診された。血液検査ではC型肝炎ウイルス抗体が陽性であった。腹部超音波検査では肝硬変の所見はみられなかった。
C型肝炎ウイルス持続感染による慢性肝炎の診断で他院に紹介となった。
他院にて経口抗ウイルス治療が12週間行われ、C型肝炎ウイルスは治癒した。以降肝機能は正常化し、定期通院中である。
10.2 55歳女性
ここ数年で約10kgの体重増加があったが放置していた。
健康診断で行われた血液検査で肝機能障害を指摘され、当院を受診された。
血液検査ではコレステロール、中性脂肪値が高値であった。
肝炎ウイルスやその他の原因は指摘されなかった。
腹部超音波検査では脂肪肝の所見を認めた。アルコール多飲歴はなかった。
NAFLD/NASHと診断し、食事や運動などの生活習慣の改善と減量を指導し、脂質異常症の内服治療を行った。
その後数か月で肝機能障害は改善し、約1年後に数値は正常化した。
11 肝機能障害の症状かなと思ったら
食欲不振や倦怠感、黄疸(白目が黄色くなる)、尿の黄染(尿の色が濃くなる)、吐き気、嘔吐、腹痛に気づかれた方や、健康診断などで肝機能障害を指摘された方は、必ず一度消化器内科を受診しましょう。
新橋消化器内科・泌尿器科クリニックでは、肝機能障害の適切な検査、診断が行えます。
専門的な治療が必要な場合は適切な病院へご紹介いたします。
詳しくは当院医師、スタッフまでお気軽にお尋ねください。
12 診療費用
当院は全て保険診療です。
初診の診療費用は薬代を除き、おおよそ下記のようになります。(3割負担)
尿検査のみ | 2000円前後 |
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エコー検査のみ | 2500円前後 |
採血+尿検査 | 3500円前後 |
採血+尿検査+エコー検査 | 5000円前後 |
CT検査 | 5000円前後 |
尿流量動態検査 | 1500円 |
膀胱鏡検査 | 3000円 |
胃カメラ | 4000円前後 |
大腸カメラ | 5000円前後 |
※3割負担の場合
名古屋大学出身
消化器病学会専門医
消化器内視鏡学会専門医
内科認定医
肝臓、胆嚢、膵臓から胃カメラ、大腸カメラまで消化器疾患を中心に幅広く診療を行っている。