メニュー

iPS細胞治療が新たな段階へ
2026年に承認された2つの再生医療等製品とは?

[2026.08.04]

はじめに

「iPS細胞」という言葉を、ニュースやテレビで目にする機会が急に増えたと感じていませんか。

2026年2月、厚生労働省はiPS細胞から作られた再生医療の薬・製品を、世界で初めて条件・期限付きで承認しました。同年5月にはそのうちの一つが保険適用となり、大きな話題となっています。

「万能細胞」「夢の医療」と呼ばれてきたiPS細胞が、開発から20年の時を経て、ついに現実の治療として動き出したのです。

このページでは、iPS細胞とはどんなものか、今回何が承認されたのか、そして今後どこまで広がっていきそうかを、できるだけわかりやすくお伝えします。


 iPS細胞とは何か

iPS細胞(人工多能性幹細胞)とは、血液や皮膚など体の細胞に特別な処理を加えて作られる、いわば「万能細胞」です。心臓の筋肉、神経、軟骨、すい臓など、体の中のほとんどの種類の細胞に変身できる力を持っています。

2006年、京都大学の山中伸弥教授がマウスの皮膚の細胞からこのiPS細胞を作ることに成功し、2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。似たような万能細胞に「ES細胞」がありますが、こちらは受精卵を使って作るため倫理的な問題が指摘されてきました。iPS細胞は皮膚や血液など体の細胞から作れるため、そうした問題を避けながら万能細胞を得られる点が画期的だったのです。


iPS細胞には2つの作り方があります。一つは「自分の細胞から作る方法」です。この場合、体が「自分のもの」と認識するため、拒絶反応が起きにくいという利点があります。もう一つは「他の人の細胞から作る方法」です。あらかじめ大量に作って保存しておけるため、必要なときにすぐ使えるという利点があります。今回承認された治療は、いずれもこの「他の人の細胞から作る方法」が採用されています。

この「他の人の細胞」を安定して届ける仕組みとして知られているのが、京都大学iPS細胞研究財団が行っている「iPS細胞ストック事業」です。拒絶反応が起こりにくいタイプの血液を持つ健康な方から細胞の提供を受け、あらかじめ安全性の確認を済ませたiPS細胞を大量に作って保存しておくことで、必要な医療機関にすぐ届けられる体制を整えています。今回のパーキンソン病治療薬「アムシェプリ」も、この仕組みで作られたiPS細胞をもとに製造されました。この仕組みのおかげで、iPS細胞は「一人のために一から作るもの」ではなく、「多くの患者様に届けられる医療」へと近づいたといえます。

2026年 何が承認されたのか

今回、条件・期限付きで承認されたのは以下の2つの治療です。

重症心不全に対する心筋シート「リハート」


iPS細胞から作った心臓の筋肉の細胞をシート状にして、心臓の表面に貼り付ける治療法です。標準的な治療を行っても十分な効果が得られない、虚血性心疾患による重症心不全の患者さんに対する新たな治療選択肢として期待されています。

パーキンソン病治療薬「アムシェプリ」


iPS細胞から作った、脳内でドパミンという物質を作る神経のもとになる細胞を、手術によって脳の中に届ける治療です。京都大学iPS細胞研究所(CiRA)で長年積み重ねられてきた研究をもとに、住友ファーマが製造販売の承認を取得しました。今使っている薬で十分な効果が得られないパーキンソン病の患者様が対象で、2026年5月20日から保険適用となり、製品の薬価は5,530万円です。これは患者さんが全額を負担する金額ではなく、実際の自己負担額は保険制度や高額療養費制度などによって異なります。

どちらも「条件・期限付き承認」という位置づけで、今後7年ほどかけて効果や安全性のデータをさらに積み上げ、あらためて正式な承認を目指す段階にあります。
また、心臓の手術や脳の手術を伴う治療のため、実施できる医療機関はまだ限られています。「夢の治療」が現実になった一方で、まだ発展の途上にあるということも、正しく知っておきたいポイントです。


薬を作るためにも役立つ

iPS細胞のすごさは、体に移植する治療だけにとどまりません。iPS細胞はどんな細胞にも変身できるため、研究室の中で「病気にかかった状態の細胞」を人工的に再現することができます。これにより、患者様の体を傷つけることなく病気の原因を調べたり、より効果的な新しい薬の候補を探したりすることが可能になります。

実際、頭や首にできる癌に対しては、iPS細胞から作った免疫細胞を体に投与する臨床試験が国内で行われ、安全性が確認されるとともに、一部の患者様で癌の進行を抑える効果も報告されています。また、体の筋肉が徐々に動かなくなっていくALS(筋萎縮性側索硬化症)など、他の神経の病気についても、iPS細胞を使った治療薬の開発が国内外で進められています。

このほかにも、iPS細胞を使った研究は幅広い病気・分野で進められています。


目の病気(加齢黄斑変性)

iPS細胞から作った目の網膜の細胞を移植する研究が行われ、視力の維持につながる可能性が報告されています。

 

脊髄損傷(背骨の中の神経の損傷)

iPS細胞から作った神経のもとになる細胞を損傷部位に移植する研究が行われ、体の動きが一部回復した例も報告されています。

 

角膜(黒目の表面)

iPS細胞から角膜の細胞を作り、角膜の病気を治療する研究が進められています。

 

血液・血小板

iPS細胞から輸血に使う血小板や血液の細胞を安定して作り出す研究が進んでおり、輸血用血液の新しい供給源として期待されています。

こうした研究の多くは、まだ少人数を対象とした段階にありますが、今回の心筋シートとアムシェプリの承認は、これらの研究が実際の「治療」として実を結ぶまでの道のりを具体的に示した点でも、大きな意味を持っています。今後、対象となる病気がさらに広がっていくことが期待されている分野です。

 

 iPS細胞治療を受けるうえで知っておきたいこと

期待の大きい技術である一方、現時点でのiPS細胞治療には知っておくべき点もあります。

 

  • 対象となる病気がまだ限られている
    日本で承認されているiPS細胞由来の再生医療等製品は、現時点では、虚血性心疾患による重症心不全とパーキンソン病を対象とするものに限られています。

 

  • 体への負担(侵襲性)が大きい
    心臓への貼り付けは胸を開く手術、脳への移植は頭に穴をあける手術を伴うため、体を切ったり削ったりする「侵襲的」な処置が避けられません。

 

  • 費用が高額
    薬の価格だけで数千万円規模になる治療です。

 

  • データ(エビデンス)はまだ積み上がっている途中
    条件・期限付きの承認であり、効果や安全性を裏付ける科学的な根拠=エビデンスは、長期の調査によってこれから確認されていく段階です。


こうした点から、iPS細胞治療は「誰もがすぐに受けられる医療」ではなく、特定の重い病気を持つ患者様のための、限られた医療機関で、厳格な適応判断のもとに行われる高度な治療です。

 

 幹細胞を使った再生医療は、実はすでに身近にある

iPS細胞のニュースをきっかけに「再生医療」そのものに関心を持たれた方も多いのではないでしょうか。実は、幹細胞を使った再生医療は、今回承認された他家iPS細胞由来製品のように、ドナーの細胞をもとに作られるものだけではありません。ご自身の脂肪から取り出した幹細胞を培養して体に戻す「自己脂肪由来幹細胞治療」も再生医療の一つで、すでに全国の医療機関で行われています。

iPS細胞を使った治療とは、対象となる病気も体への負担もまったく異なります。他の人の細胞を使うiPS細胞とは違い、ご自身の細胞を使うため拒絶反応の心配が少なく、心臓や脳の手術のような侵襲的な処置も必要ありません。おなかなどの皮下脂肪から少量の脂肪を取り出し、培養して数を増やした幹細胞を、点滴で体に戻すという「低侵襲」な方法で行われます。

幹細胞には、弱った組織から出される「助けて」というサインを感じ取って、その場所に集まっていく性質があり、これは「ホーミング効果」と呼ばれています。集まった幹細胞は、成長因子やサイトカインといった物質を周囲に送り出すことで、周りの細胞にさまざまな働きかけを行います。この働きは「パラクリン効果」と呼ばれ、炎症を鎮めたり、新しい血管を作ったり、傷ついた組織の修復を助けたりすると考えられています。

 当院の自己脂肪由来幹細胞治療について

当院では、再生医療等安全性確保法に基づき、認定再生医療等委員会による審査を経て、厚生労働大臣へ届け出た治療計画に沿って、自己脂肪由来幹細胞治療を行っています。

患者様ご自身の脂肪から採取した幹細胞を培養し、十分な数まで増やしてから体内へ戻します。ご自身の細胞を利用するため、拒絶反応のリスクを抑えられることに加え、患者様一人ひとりの身体の状態に合わせた治療を目指せる点も特徴です。

糖尿病

糖尿病では、血糖値の上昇だけでなく、慢性的な炎症や血管機能の低下が病状の進行に関係しています。

自己脂肪由来幹細胞から分泌される成長因子やサイトカインには、炎症を抑え、血管内皮の働きを支える作用が期待されています。こうした働きによって、インスリンが作用しやすく、血糖をコントロールしやすい体内環境へ近づけることを目指します。

従来の食事療法、運動療法、薬物療法を続けながら、身体の内側から糖尿病の背景にある炎症や血管障害へ働きかける、新たな治療選択肢です。

ED(勃起不全)

EDの多くには、加齢や糖尿病高血圧、動脈硬化などによる血管機能の低下が関係しています。

幹細胞には、血管の形成や血管内皮の修復を支える成長因子を分泌する働きがあります。陰茎の血流に関わる血管環境へ働きかけることで、血流の改善と、より自然な勃起機能の回復を目指します。

ED治療薬は服用している間の勃起を助ける治療ですが、幹細胞治療はEDの背景にある血管や組織の状態そのものに働きかけることを目的としています。内服薬だけでは十分な効果を感じられなかった方にとっても、新たな可能性のある治療です。

慢性的な痛み

慢性的な痛みの背景には、組織の損傷や炎症が長く続き、身体が本来持つ修復機能だけでは回復しきれていない状態が関係することがあります。

幹細胞のホーミング作用とパラクリン作用によって、炎症を抑え、傷ついた組織の修復を支えることで、痛みの軽減や身体機能の改善を目指します。

痛み止めによって一時的に症状を抑えるだけではなく、痛みが起きている組織の環境へ働きかけることを目的とした治療です。

慢性腎臓病

慢性腎臓病では、腎臓の中で炎症が続くことにより、組織が硬くなる「線維化」が進み、少しずつ腎機能が低下していきます。

幹細胞には、炎症を抑える作用に加え、血管や組織の修復を支え、線維化に関わる反応を調整する働きが期待されています。

残っている腎機能をできる限り守り、腎機能の低下を緩やかにすることを目指す治療です。将来的な透析への移行が心配な方にとって、従来の治療に加えて検討できる新たな選択肢となります。

終わりに

iPS細胞を使った治療が実際の医療として動き始めたことは、再生医療にとって大きな一歩です。
現在は対象となる病気や治療を受けられる医療機関が限られていますが、今後さらに研究が進むことで、これまで治療が難しかった病気にも新たな可能性が広がっていくことが期待されています。

再生医療には、iPS細胞を使った治療だけでなく、ご自身の脂肪から採取した幹細胞を用いる自己脂肪由来幹細胞治療もあります。当院では、患者様の状態やこれまでの治療歴を確認したうえで、期待できることや治療方法について丁寧にご説明しています。

現在の治療に加えて、再生医療という新たな選択肢を検討したい方は、お気軽にご相談ください。

◆❖◇◇❖◆◆❖◇◇❖◆

◾️エクソソームや再生医療専用の公式LINEが出来ました。

こちらのアカウントでは再生医療やエクソソーム治療についての最新の情報やお得なキャンペーン情報などを定期的に配信して参ります。
ぜひご登録いただけますと幸いです。

 

この記事を執筆した人
伊勢呂哲也
伊勢呂哲也

日本泌尿器科学会認定・泌尿器科専門医
名古屋大学出身
年間30000人以上の外来診察を行なう。
Yahoo!ニュース エキスパートとして情報発信
YouTubeでわかりやすい病気の解説も行なっている。
再生医療専門クリニックも運営

 

HOME

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME