メニュー

薬が足りない!医療現場に迫る危機

[2025.01.22]

はじめに

近年、薬の供給に遅れが生じることが増えており、特に治療に欠かせない薬が手に入りにくくなるという深刻な状況となっています。この影響で患者様の治療が予定通りに進まなかったり、代わりの薬に切り替えざるを得なかったりするケースも出てきています。
国や製薬会社側での早急な解決が求められる一方で、患者様自身も状況を理解し、対応策を医師や薬剤師と共に考える必要が出てくるかもしれません。

1 薬不足の現状

我々が患者様に最適だと判断し処方した薬に対し、供給不足で在庫がないという近隣薬局からの連絡が多い日だと1日に20件くらいあります。「在庫がないならその薬のジェネリックでいいですよ」とお伝えしても「ジェネリックもありません」というお返事がとても多いのです。
このように、日々、患者様の診療をしている中でも薬不足の状況であるとヒシヒシと感じています。

当院を例に挙げると、男性更年期障害治療注射薬「テスチノンデポー」は1ヶ月くらい入荷が滞っています。男性ホルモン注射の代替品はなく、患者様にとっては四面楚歌の厳しい状況となっているのです。

2 ジェネリック医薬品とは

ジェネリック医薬品とは、特許が切れた「先発医薬品」と同じ有効成分、効能、用法、用量を持つ薬で「後発医薬品」とも呼ばれます。
先発医薬品は大手製薬会社が製造・販売し、その特許が切れた後は比較的小さな規模の会社が同じレシピで製造・販売するといった流れが一般的です。製造レシピがすでに出来上がっているため開発費がかからなく、先発品よりリーズナブルな価格で販売されています。
大手製薬会社がジェネリック医薬品を製造することもありますが、主に新薬の開発と販売に注力しているため、ジェネリック市場に対する直接的な関与は少ないのが一般的です。

同じ有効成分なら先発品が足りなくなっても後発品であるジェネリックがあるなら問題ないのではと思われる方もいらっしゃいますよね。
しかし、その後発品も不足しているという深刻な状況に陥っているのです。
ではなぜ後発品も不足しているのでしょうか。日経新聞に興味深い記事を見つけましたのでそれを参照してお伝えして参ります。

3 ジェネリック医薬品の限界

日本では厚生労働省が後発医薬品の積極的な利用を勧めている事もあり、市場は後発医薬品(ジェネリック医薬品)使用率が87%に達しているとも予測されています。
大手の先発医薬品業者はジェネリック医薬品へのこういった流れを歓迎しない傾向があります。開発や製造に多くの時間や資金を費やしてきた先発品のレシピを使って後発医薬品業者がリーズナブルに製造、販売しているので当然かもしれません。このような経緯もあってか、特許が切れた薬の製造は縮小あるいは終了し、新薬の開発などに注力するケースが多くなっています。

一方、後発医薬品業者は大手製薬会社と比べて資金力や設備投資に限りがあり、経営基盤が弱いところが欠点です。経営基盤が弱いと受注が読めない事もあり、製造は小規模ロットにならざるを得ません。
つまり需要が急増した場合に生産ラインを維持するのが難しいという現状があるのです。また、原材料の調達においても大手製薬会社と比べて優位性が低いため、新たに製造しようと思ってもスムーズにいかず、供給が滞ってしまうリスクを伴います。

これが現在の薬不足の真相の全てです。

4 薬不足にどう対応するか

例えば、男性更年期障害治療注射薬(テスチノンデポー)が不足している場合、注射薬の代替品はないのですが、男性ホルモンクリーム剤(グローミン)やエクソソーム配合クリーム(エクステム)などの違ったアプローチで治療することが可能です。

代替薬は本来処方するはずの薬と同じ成分や効果を持たない場合もありますが、似たような作用を持つ薬を選ぶことで治療を継続することができます。
第一に考えなくてはならないのは何より患者様の健康であり、患者様の治療が滞ったり、変更せざるを得なくなったりすることのないように、我々医師も慎重に判断していかなくてはなりません。

製薬業界のこのシステムが変わることがなく、国が介入する予定もなければ、今後もこの薬不足の状態は変わらないのではないでしょうか。
後発医薬品業者には供給体制の強化や新薬への迅速な対応が求められる一方、業者間での協力体制が整うことを願うばかりです。

5 患者としてするべきこと

薬の過剰な在庫を持たない事はもちろん、薬不足に対する正しい知識を持ち、医師や薬剤師から十分に説明を受けた上で主体的に代替医療を選択していくことが必要です。
自らが受ける治療について詳しく調べる事は、治療の可能性を広げることにも繋がり、思わぬ治療方法にたどり着くケースもあるのです。

6 終わりに

薬不足の状態は今後も続くと思われます。
患者様に最適な代替品を選ぶためには我々医師や薬剤師も知識を高めるための努力を惜しまず、様々なアイデアをもって臨機応変に行動する必要があります。また、治療を受ける患者様もその情報をしっかりと受け入れ、積極的に治療に参加することが不可欠となります。

この記事を執筆した人
伊勢呂哲也
伊勢呂哲也

日本泌尿器科学会認定・泌尿器科専門医
名古屋大学出身
年間30000人以上の泌尿器科と消化器科の外来診察を行う
YouTubeでわかりやすい病気の解説も行なっている。

 

HOME

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME