胃がんの初期症状・原因・検査・治療について
胃がんと聞いてどのようなことを想像するでしょうか。
胃がんは胃の粘膜からできる悪性腫瘍の総称です。
以前、胃がんは日本人の癌による死亡の第1位でしたが、近年、診断や治療方法が向上し、男性では第3位、女性では第5位となっています。
胃がんは初期症状は無症状のことが多いのですが、進行すると胃の切除や抗がん剤治療が必要となるため、早期発見や早期治療が非常に大切です。
この記事では胃の働きや胃がんの初期症状、検査(胃カメラ検査など)、治療法(スキルス胃がんなども)について消化器内科専門医がわかりやすく解説しますので参考にしていただければ幸いです。
1 そもそも胃とは何をするところか
胃は、食べ物の通り道の消化管の一つで、食道と十二指腸の間にあります。食べ物を貯め、消化酵素の胃酸によって消化し、時間が経つと食べ物を十二指腸に送り込みます。
2 胃がんとは
胃がんは胃の粘膜からできる悪性腫瘍の総称です。
胃がんは胃炎や萎縮している胃の粘膜から発生すると言われています。
多くは後述するヘリコバクター・ピロリ菌(ピロリ菌)の感染と深く関連しており、日本では胃がんの患者様の約99%はピロリ菌に感染していると言われています。
3 胃がんの現状
胃がんにかかる数は、国立がん研究センターがん情報サービスの統計によると、2019年時点で10万人あたり男性138人、女性60人で、男女ともに増加傾向にあります。
以前、胃がんは日本人の癌による死亡の第1位でしたが、近年診断や治療方法が向上し、男性では第3位、女性では第5位となっています。
4 胃がんの原因・リスク
ピロリ菌感染の他、喫煙や多量の塩分摂取、過度の飲酒が発症リスクを高めると考えられています。
5 胃がんの症状について
胃がんの症状は、初期症状は無症状のことが多く、進行するに従って以下のような症状が現れます。
5.1 腹痛・胃もたれ・胸やけ・吐き気・食欲不振
胃がんが進行してくると、腹痛(みぞおち周辺の痛み)、胃もたれ、胸やけ、吐き気、食欲不振などの症状が出現します。
これらの症状は胃炎や胃潰瘍、逆流性食道炎などの症状と似ており、症状のみでは区別できない場合が多いです。
5.2 吐血・黒色便・貧血
胃がんが進行すると、癌の部分からじわじわと出血して、吐血や黒色便などの症状が出現する場合があります。出血が続くと貧血となり、輸血や緊急での止血対応が必要となる場合があります。
6 胃がんの検査について
6.1 血液検査
癌からの出血が続くと、ヘモグロビン値が低下し、貧血がみられることがあります。
また腫瘍マーカー(CEA、CA19-9)の上昇がみられることもあります。
腫瘍マーカーは癌の勢いや進行度を反映すると言われていますが、進行した状態でないと数値が上がらないことも多く、あくまで画像検査が診断の中心となります。
6.2 上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)
口や鼻から内視鏡を挿入し、胃の内部を観察して、癌を直接調べることができます。胃カメラ検査で癌の見た目により癌の深さ(深達度)を診断し、治療法を決定する際の参考とします。
また同時に生検(組織検査)を行い、がん細胞がいるかどうかを調べることができます。
6.3 X線検査(バリウム検査)
バリウムを飲んで胃の中に広げ、表面の凹凸をレントゲンで観察する検査です。胃の形や癌の部位、深さを調べることができますが、早期がんでは診断が困難な場合があります。現在では胃カメラ検査が主流となっており、あまりバリウム検査は行われておりません。
6.4 CT・MRI検査
胃がんの深さや、リンパ節や肝臓、肺、腹膜などの他の臓器に転移がないかなどを調べます。CT、MRI検査をすることで、治療法の決定に役立ちます。当院でもCT検査を行っております。詳しくは当院医師スタッフまでお尋ねください。
6.5 審査腹腔鏡
CTなどの検査で腹膜に癌が広がっているか分かりにくく、その診断が治療法の決定に重要な場合は、全身麻酔でお腹に小さな穴を開け、腹腔鏡というカメラを挿入してお腹の中を直接観察します。
同時に組織や腹水を採取することができます。
7 胃がんの治療について
胃がんの治療は、主に上にあげた検査を組み合わせ、深さや転移の状況でステージを決定し、全身状態を考慮して以下の治療法が選択されます。
7.1 内視鏡的切除
胃がんが一番浅い粘膜の層に留まっている早期がんの場合、胃カメラを用いて粘膜の下の層(粘膜下層)を金属の輪っかのような器具(スネア)や電気メスのようなもので切除する内視鏡的粘膜切除術(EMR)や内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)という方法がとられます。
後述する外科的切除と比較して、体の負担が少なく、切除後も胃を残す事ができるため、食生活への影響が少ない治療法です。
7.2 外科的切除
胃がんが内視鏡的切除できないくらい深い層まで進行しているけれど、遠くの臓器に転移していない場合は、外科的切除が行われます。
手術には開腹手術の他、腹腔鏡下手術やロボット支援下腹腔鏡下手術があります。
胃がんの部位により胃を半分から全部切除し、胃の周りのリンパ節も切除して、最後に残った胃をつなぎ新しい食べ物の通り道を作っていきます。
内視鏡的切除と比較して、術後の回復に時間がかかり、食事の摂り方に注意が必要となります。
7.3 抗がん剤
胃がんが遠くの臓器に転移しており、切除が困難と判断された場合には抗がん剤が使用されます。
抗がん剤には細胞傷害性抗がん剤、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬があり、単独または組み合わせて使用します。
全身状態や癌の状況、通院頻度などにより薬剤が選択されます。
また外科的切除後の癌の再発を予防するために、決まった期間、抗がん剤が使われる場合もあります。
7.4 免疫治療
免疫の力を利用して癌を攻撃する新しい治療法です。ただ現時点で胃がんの治療に効果が証明されているものは、MSI-Highという遺伝子異常がある場合にのみ使用できるペムブロリズマブというお薬のみとなっています。
7.5 放射線治療
癌による痛みや食べ物が通らない症状を緩和させる目的で使用したり、出血を抑えたりする目的で使用する場合があります。
8 胃がんの予防について
8.1 ピロリ菌
日本では胃がんの患者様の約99%はピロリ菌に感染していると言われています。
血液抗体検査や尿素呼気検査、便中抗原検査でピロリ菌感染の診断を行います。ピロリ菌感染が判明した場合は、1種類の胃薬(ボノプラザン)と2種類の抗生物質の内服を1週間行うことで、約9割近くの方が除菌治療に成功します。
もし、1回目で除菌ができなかった場合でも、抗生物質を変更して1週間内服加療を行うことで、95%近くの方が除菌治療に成功すると言われています。
一度ピロリ菌除菌を行った後に再度ピロリ菌に感染することはほぼないと言われています。
ピロリ菌除菌を行うことで、胃がんだけでなく胃潰瘍や十二指腸潰瘍の発生を有意に低下させることができると報告されています。
8.2 生活習慣の改善
禁煙し、多量の塩分摂取や過度の飲酒を控えることが大切です。
9 胃がんを放置すると
胃がんは早期の状態や他の臓器に転移がない場合は、切除により癌を完全に治すことができる根治的治療が可能です。
しかし進行して他の臓器に転移する状況になると、根治的治療が難しくなります。なるべく早期に発見して早期に治療することが大切と考えられます。
10 胃がんの患者様の経過の例
10.1 32歳女性
約1か月前からの胃もたれ、食欲不振、吐き気、嘔吐症状が続くため、当院を受診された。
胃カメラを行い、胃体部の胃壁の伸展不良、襞(ひだ)の腫大所見を認め、組織検査を行い、胃がん(スキルス胃がん)の診断となった。
CT検査では腹膜に小結節が多発し、腹水貯留所見を認め、腹膜播種の診断となった。他院に紹介し、抗がん剤治療を行っている。
10.2 60歳男性
健診でピロリ菌感染が指摘されたため、当院を紹介された。
胃カメラを行ったところ、胃前庭部に20mm大の陥凹性病変を認めた。
組織検査を行い、胃がんの診断となった。
CT検査ではリンパ節転移や遠隔転移の所見を認めなかった。
以上から早期胃がんと診断し、他院に紹介となった。他院にて内視鏡的切除(ESD)が行われた。以降再発なく経過している。
11 胃がんの症状かなと思ったら
腹痛や胃もたれ、胸やけ、吐き気、食欲不振、黒色便などに気づかれた方は、必ず一度消化器内科を受診しましょう。
新橋消化器内科・泌尿器科クリニックでは、胃がんの適切な検査・診断が行えます。治療が必要な場合は適切な病院へご紹介いたします。
詳しくは当院医師・スタッフまでお気軽にお尋ねください。
12 診療費用
当院は全て保険診療です。初診の診療費用は薬代を除き、おおよそ下記のようになります。(3割負担)
尿検査のみ | 2000円前後 |
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エコー検査のみ | 2500円前後 |
採血+尿検査 | 3500円前後 |
採血+尿検査+エコー検査 | 5000円前後 |
CT検査 | 5000円前後 |
尿流量動態検査 | 1500円 |
膀胱鏡検査 | 3000円 |
胃カメラ | 4000円前後 |
大腸カメラ | 5000円前後 |
※3割負担の場合
名古屋大学出身
消化器病学会専門医
消化器内視鏡学会専門医
内科認定医
肝臓、胆嚢、膵臓から胃カメラ、大腸カメラまで消化器疾患を中心に幅広く診療を行っている。